ヘッドホンの話

年明けてから手に入れたヘッドホンの話。基本的にぼくはカナル型のガッチリと耳中の形にフィットするイヤホンを好んでいて、街に出かけるときに限れば今もイヤホン使いなのだが、家で音楽を聴くときの相棒の座にいるのは、最近はもっぱらこの新しく買ったオーディオテクニカのヘッドホンである。

 

DTM (音楽制作) のモニタリング用に買ったものだった。音楽制作をする人はモニタリング用途のヘッドホンとスピーカーを持たなければならない。しかし不精なぼくはこれまでそれを普段使いのイヤホンとMacのスピーカーで済ませてしまっていたのだ。

このヘッドホン。まずデザインが良い。真っ白く可憐である。シンプルで、余計なゴツゴツは削ぎ落とされているけど、必要なゴツゴツはちゃんとゴツゴツしている。その印象は実物を手に入れても変わらなかった。むしろ実物の方が写真よりも一層魅力的である。可憐なだけでなく、その質感にはシックで高級な大人っぽさがある。

次にかけ心地が良い。ヘッドホンという生き物は音もルックスも素敵だから、音楽好きなら誰もが一度は憧れた過去があると思う。だが実際に使ってみて意外とそのかけ心地に馴染めなかった人も多いのではなかろうか。耳の端がぎゅっと圧迫されるのもそうだし、ぼくの場合はワイヤー部分が絶え間なく頭頂部を押さえつけてくることになによりも理不尽なものを感じた。ぼくの頭頂部になんの罪があるだろう。翻って、このヘッドホン。かけ心地がいいのである。きっとスプリングが上質なのだろう。クッションにも、安易な妥協はしてくれるなというメーカーの姿勢が感じられる。

音質も良い。イヤホンはBOSEのものを使っているがそれに劣る印象はない。それどころか、音数が少なく空間の響きをパッケージした音源であるなら、こちらに軍配が上がると思う。ヘッドホンはやはり「広がり」に強い。モニタリング用だけあって高音や低音のドーピングがないフラットなイコライジングなので聴き疲れもない。

長く太いコードが良い。ギターをライン録音するときに意外と邪魔になるのが、オーディオインターフェイスに繋いだイヤホンのコードだ。イヤホンのコードは細くて短い。短いのでイヤホンを耳に入れているとオーディオインターフェイスから離れられない。要するに立ってのびのびとギターを弾けないし、もしもテンションが上がってきて勢い余って半回転ターンでも決めたら断線待った無しだ。

オーディオ機器は酒やグルメと同じで、良いものを継続的に嗜んで初めて違いが判ってくる。継続的に、だ。ときどきイベント気分で嗜んでもあまり意味がない。継続的に良い酒を飲み続けてはじめて、「普通の酒」を飲んだときにその普通さを発見する経験ができる。

ヘッドホンにはイヤホンよりも「遮断」の効果があって良い。ノイズキャンセリングとかそういう意味じゃない。ヘッドホンは物質として大きくて、耳をすっぽり頭をカチッと覆ってくれるのだ。そうやってすっぽりカッチリしていると、実際に聴こえている以上に、いろんなものが遮断されている気がしてくる。作業をするときは「よしやるぞ」となるし、考えたくもないことがあれば「よし考えないぞ」ってなる。

このとおり、ヘッドホンは今巷で大ヒット中の商品よりもよっぽど「ウイルス」を遮断してくれる。そして音楽という素敵なウイルスにあなたを感染させる。みんなで買い占めよう!