裏原系に憧れて

久しぶりに原宿に行ったら「旧・原宿駅」の隣にまったく新しい「新・原宿駅」ができていてびっくりした。家に帰ってググると三月下旬からこっちの駅に切り替わったらしい。旧のほうは駅舎自体は残っているがシャッターが降りている。近いうちに取り壊されるかもしれない。上京したての頃はぼくも意味もなく原宿に来ることがあった。思えばその頃はいつも「原宿ってのは流行の最先端という話だが、それにしては随分と古い駅だっぺ」と思っていた記憶がある。尋常じゃない人混みなのに狭くて冷房が効いていなくてとにかく不快指数の高い駅だった。だから「原宿に来ていること」それ自体に高揚感を抱ける季節をすぎると、自然と足は遠のいた。かつて流行した「裏原系」という言葉に憧れて群馬在住のくせに原宿の美容院に通っていた友人と、古着屋なんかを巡ったのも今は遠い昔。

 

営業を再開したスターバックスに行くと、アイスコーヒーのストローが変わっていた。以前はカンパニーカラーの緑のプラスチックのストローだったが、紙のストローに変わっている。秋にデスクトップパソコンを買ってからぼくは、カフェでノートパソコンを開くことがなくなった。しかし営業を再開したばかりのスタバでは早速、かつてのぼくのように外に出るための身だしなみをわざわざ(適度に)整えてカフェでノートパソコンと向き合う人々が大勢いた。つい数日前まで、彼らはどこで「作業」をしていたのだろう。

 

ジョギングのキャリアは半年を越えて、夏用のウェアも買った。前は夜暗くなってから走っていたけど今は明るいうちから走る。ニット帽をキャップに切り替えた。その日の天気予報をチェックして雨のない時間を見つけて走る。距離も驚くほど順調に伸びている。日差しが強ければ日焼け止めを塗るようになった。歩道の「羽虫の飛んでいない側」を意識して走るようになった。そして走った後は湯船にいい香りのする入浴剤を入れてリラックス。

 

旅の最中は日焼け止めなんてナヨナヨしいもの使わなかった。その頃と入浴剤まで常備している今はなにからなにまで違う生活でときどき不思議な気分になる。もちろん、どちらが良くて、どちらが悪いという話ではない。むしろ「どっちもあるべきだ」と思う。でもなにより不思議なのは、こういう2020年がくることをまるで予期したかのように十四ヶ月もの外国旅行をぼくは終えていたことだ。まさに「心ゆくまで」という言葉がふさわしいほどに、なんの制限もなく。