ロシアとウクライナが戦争をしているが、よく分からない

ロシアとウクライナが戦争をしているが、よく分からない。開戦の経緯を追っていたわけではないし、両国の現代史を学んだこともないからだ。そして、その戦争でぼくが命や財産、仕事を失うことはない。

世界についてなにも知らない、というわけではない。三年前の長旅では各地でロシア人にもウクライナ人にも会った。それぞれの国には入国しなかったが、シベリア鉄道でモンゴルに行って、カザフスタンキルギスウズベキスタン中央アジアを長く巡っていた。旧ソビエト連邦であるそれらの地域には合わせて三ヶ月滞在し、キリル文字やロシア語の響きを知り、社会主義の名残を街並みや博物館などで見る機会もあった。罪と罰カラマーゾフの兄弟は最後まで読んでいる。大学では、タルコフスキーの映画を半年かけて丁寧に観る講義を受講したこともある。

だけど、その程度の知識と経験は、その程度の知識と経験でしかない。つまり、ロシアとウクライナが戦争をしているが、過去の知識を動員し、ちょっとニュースを読んだ程度では、ぼくはまだよく分からない。分からないし、その戦争でぼくが命や財産、仕事を失うことはない。

ロシアとウクライナが開戦して、それぞれの国についてかなり詳しい人が突如として大量に現れ、一斉に気の利いたことを言いはじめた。そこで交わされる「発信」のほぼすべては、ロシア人やウクライナ人が読むことを想定したものではなく、ヨーロッパやアメリカや中国と意見交換しているわけでもない。何を感じるのかというと、戦争という非常事態への「対応」の必要性があって「発信」しているのではないのだろう、ということだ。ワイドショーを見て、家族相手に芸能人の批判を大々的に繰り広げているような、構図を抜き取ればそのくらいの落差がある。